杉木氏エネルギー論壇
ダム地点は、限りある天与の循環資源………理解しにくいIRNの考え方
人が生きていくための基本的なニーズは、「衣・食・住」と次いで「水・火・電・燃」であろう。「電・燃」とは、電気と輸送用等の燃料を意味するが、火も含めて「エネルギー」といってもよい。ダムは、人間に必要なこの「水・電気エネルギー」をもたらしてくれる循環型施設である。しかし、それができる地点は地球上限りがある。そして、短期的には周辺環境に影響を与えるが、長期的には自然の循環系に組み込まれる、今の社会にとっては必要な施設である。
「天然の港や湖」が、交通や生活・産業に便をもたらしてくれるように、恵まれたダム地点は、経済的に水と電力エネルギーの利用を可能にする限りある天然の資源であるといえる。完全な天然港は少なく、たいていは、条件の整ったところに防波堤を築いたりして利用していが、ダム地点も同様で、経済的に成り立つところで、人間の努力と投資によって、利用可能な資源となるのである。
足立氏HP「000206ZC」に、IRNのフィリピン、IPPサンロケダム反対論がでている。要旨は、
@ダムによって居住地を奪われる被害者擁護、
A上流鉱山の鉱滓による水質悪化、
B地震によるダム決壊のリスク、
C治水・利水目的のダム費用4億ドルの国民的負担等、
を建設中止の理由としている。そして、ダムの受益者は、発電IPP開発会社、流域内の鉱山会社、融資で高利息を稼ぐ銀行であり、被害者は、居住地や田畑をなくする水没関係者、将来ダム決壊の被害を受けるかも知れないダム下流の居住者、および、治水・利水目的のダム投資4億ドルに対して長期間返済の義務を負わされるフィリピンの人々であると主張している。
HP「990817C」で、アフリカ、NamibiaのEpupa水力についても同様な反対論がアフリカ開発銀行にに対して提議されていた。議論は、問題の切り口と見方によって幾らでもできる。したがって、どのような主張であっても構わないと思うが、その主張には共感させる一貫した理由が欲しい。その点で、このサンロケダム反対論も理解できないところがある。一番の問題は、プラス面の評価がないことであるが、反対理由で素直に理解できるのは、@の居住地や田畑を失う被害者に対する代弁のみで、あとの3つは、筋違いと無理難題、誤解か、あるいは、言いがかりのような気がする。
ダムによって鉱害が発生するなら、先ず問題にすべきは、原因となる鉱滓の処理であろう。大地震で下流に被害者がでるという反対理由は、通常で認められる程度を超えた自然災害の場合であり、科学的な根拠がない限り無理難題と思える。あるいは、ダム建設を前提にした、構造設計に関する技術的な問題であろう。ダムに反対しているのか、構造設計に反対なのかよく判らない。長期にわたる借入金4億ドルの返済に苦しむというのは、長期間返済の義務が生ずるのは事実としても、その結果得られている便益を忘れているか、切り捨てている強弁である。IRNのダム反対論は、途上国経済についての展望はなく、先進国の立場からの一面的な反省のみを強調しているように思われる。
人間は、昔から多くの溜池を造り灌漑や飲料水に利用してきた。人工的にダムを造るには莫大な費用がかかる。したがって、自然の地形を利用して、できるだけ経済的に造る必要がある。サンロケダムは、およそ5億トンの水を貯めることができる。もし、ダムがなければ5億トンの水は海に流れ去ってしまう。上流に2つのダムがあるが、それだけでは、さらに5億トンを貯水できない。発電IPP以外のダム費用として、負担する4億ドルは、貯水量1トン当たり、4億ドル割る5億トンで0.8ドル(約100円)になる。適当なダム地点が少なくなってきた日本では、同じように1トンの水を貯める費用は、恐らく数百、数千円になろう。日本の物価高を割り引いても、サンロケダムは経済的に貯水できる魅力的な地点といえる。
毎年自由に使える1トンの水の価値はいくらか?国情や地域によって違うが、日本では処理前の原水として、恐らく数十円以上するであろう。農業用水として考えると、1トンの水は、1平方メートルの水田に100日間10mmづつ供給できる。水田として米の収穫量をおよそ0.5kg、価格を日本の1/10のと仮定し、労力その他の費用を差し引くと、水の価値は10円前後ということになる。毎年10円の便益を得られるので、水1トンを貯水するために借りた0.8ドル(約100円)は、利子を考えても、およそ、15年で返済できることになる。
人は水なしで生きていくことはできない。1トンの水は先進国では、4人家族が1日に使用する水道用水である。フィリピンでもやがてそうなるであろう。半年は雨期で川に水があるとして、残りの180日間の不足を考えると、4人家族の年間必要水量は180トンということになる。毎年1トンの水を確保できる費用が約100円であるから、4人家族では、18,000円の投資となる。これだけで50年か100年間の原水を確保できるとなれば高い投資ではないだろう。
反対論は、水があっても配管が必要で実際にはコスト高で、人々に配水できないと主張している。が、その前に、鉱滓のため水質が悪くなり、ダムには反対とも主張している。察するにIRNはダムに反対であり、そのための理由をとにかくなんでもかき集めているという印象を受ける。これは、人口が増え、食糧と水、電気がいるという現実を考えない、我を忘れた主張としか思えない。
フィリピンは、地熱以外は化石燃料資源が乏しく、水力によるエネルギーや食糧の自給は、国の重要な課題であろうと思われる。サンロケプロジェクトは、毎年約10億kwhの電力を生み出す。水力でなく火力でこれだけの発電をすれば、化石燃料の輸入が必要なだけでなく、現在問題になっている炭酸ガス発生量も年間約20万トン(炭素換算)増えることになる。地熱発電も安くない。サンロケは発電だけでは経済性が悪く開発できず、灌漑や治水も単独ではコスト高になる。多目的ダムとして、はじめて天与の資源が役立つのである。確かに、ダム建設はプラスと同時にマイナスのでることは避けがたい。しかし、その両面を客観的に評価することが必要である。でなければ、ダムのない場合の代替案を示して欲しいものである。
ダムの主成分は、岩石・土砂・セメント・鉄等で、いずれも岩石や土の中から生まれたもので、やがては元の土岩に還る長期循環型の材料である。ダム湖は長期的に見れば自然の湖と変わらない。部分的に自然環境の短期的循環とは相容れない面もあるが、本質的には拡散・収縮系ではない。現代のような大量の資源消費経済の中で、ダム地点は、貴重な循環型施設ができる得難い天与の資源なのである。 000221