本稿は,私の上記カリフォルニアの電力危機に寄せた文書に対して,先輩,友人の皆様が,積極的に私にアドバイスされた投稿の内容です。許しを得て,肩書き抜きの氏名だけ,投稿順で掲載させていただきました。ほぼ原文の通りですが,一部,状況に合わない部分は修正しています。皆様の更なる投稿を,大いに歓迎いたします。
2月12日 古市正敏氏
私は途上国のような、電力需要が10%を超える年率で伸びる国では,市場は機能しないと考えています。
電源だけでなく、ネットワークの整備ができて初めて市場機能が生かせるのではないでしょうか。
資金対策で導入されたIPPと、料金を下げるために導入された電力市場化は
政策目的がまったく違うにもかかわらず、混同して論じられているようです。
供給責任は供給者により使い分け可能である欠陥があり、他方で電力市場は
機能が成熟されておらず、参入者のリスクを評価できない状態です。
途上国での電気事業のあり方は、先進国とは違うアプローチが必要である
と考えているところは、貴兄と同じ意見です。
2月13日 杉木清氏
貴説拝見。東南アジアの電力セクターに関するご意見まったくお説のとおりと思います。
おわりにのところで、「民営化の基本は社会の成熟したところ・・・」と言うのはどうでしょう?
カリホルニアは成熟していませんか?消費者は充分電気料金を負担できるでしょう。
問題は別のところにあると言う気がします。
ただ、アメリカは活力はあるがまだ粗野な国で、大いなる実験国家ともいえます。
今回のカリホルニアのケースは経済面での禁酒法のようなものかもしれません。
資本主義経済では世界のリーダーと自負しているアメリカの上手の手から水が漏れたのでしょう
実際の現象と予測とはギャップがあり、計画屋の使命はそのギャップをできるだけ少なくすることにあると思います。。
とりあえず思いつくまま。ちょっと、気になることがあり、そのうち一筆投稿するかもしれません。
御健闘を祈ります。
2月13日 伊東雅幸氏
御無沙汰しております。私の任期もあと一ヶ月余りとなりました。
今まさに、今後のヴィエトナム電力セクターにおけるJICAプログラム型支援の方向性
を模索しているところです。私も赴任当初から世銀主導の電力自由化方策の押付けに
は抵抗を感じており、そこにカルフォルニア電力危機の発生で「やはり」と思った次第です。
特に、発展途上国における電力自由化時期は足立様と全く同じ意見です。
今まだ電灯ピーク型のヴィエトナムでは、電力需要構造自体がこれから大きく変化す
ることは間違いありませんし、まだまだこの国の電力経営者(技術者も含め)には電
源のベストミックスという観点はありません。そんな状況下で自由化すれば、どの電
源も同じ利用率でkWh当りの発電原価を基に経済性を判断し、IPPが開発するガス
火力に偏って行くことは間違いありません。そして、外国資本のガスデベロッパーに操られ、
ガス価格の上昇そして電力事業経営破綻となるでしょう。
つまり、カルフォニアの後負いをすることになると思われます。
また、電力供給の使命である「安価で安定した電力供給」が行える体制、制度が今の
世銀の言う水平分割による民営化ではないと思います。足立様の言葉を借りれば供給
責任はこれでは果たせないということが立証されたわけです。
日本の電力会社の肩を持つわけではありませんが、水平分割による民営化では原子力
および大型水力開発など長期視野に立った計画、ならびに電源と流通設備総合の経済
性を考慮した開発計画は難しく、電力供給コストが上がる大きな要因となることも全く同感です。
もうひとつの論点である「逆ざや」についてですが、これに関しては途上国でどうあ
るべきかは今のところ私も答えがありません。
電気料金は途上国の社会経済発展に大きく影響し、特にベトナムはASEANとの貿易が
全体の2/3を占めているおり、近隣諸国とのバランスも考える必要があります。ま
た、地方電化も道半ばであり貧困対策も考慮に入れなければなりません。一方、電力
需要は10%を超える勢いで成長し続けており、これを賄うための供給設備を造り続
けなければならいのに、当然自己資金もない上に、世銀、アジ銀は電力自由化を前提
に電源への資金協力を拒否しており、設備投資資金が不足しています。
したがって、
BOT,IPPまたは他国から電力を購入するしか方法が無くなりつつありますが、電気料
金が安ければ電力買電側のインセンティブが働かず、契約締結されません。(特に途
上国では電力不足が通常であり、購入電力は売り手市場となり勝ちであるため、一般
的には割高です。) 最終的には供給支障に陥るわけです。
こう考えると残された道は日本型電力民営化しかないように思えてなりません。設備
投資資金として公的資金だけでなく民間資金を調達するためには、株式化、社債発
行、プロジェクト投資などができるための民営化です。市場競争の観点から分割民営
化も必要であり、それには供給責任を明確にした縦割り分割方式が良いと思いま
す。その上で政府として補助政策をどうしていくべきか(電気料金の逆ざや解消、貧
困対策など)を考えて行くことが重要であると思います。
JICAにおいても最近、電力セクターにおける知的連携支援に力を注いでいる折でもあ
り、そろそろ世銀に対抗した日本流の電力民営化(自由化)方策に関する途上国支援
を展開すべき時期にあるのではないかと思われます。(途上国側がどちらを選択する
かは別として、少なくとも主張だけはすべきではないかと思います。)
2月15日 鈴木篁氏
ご無沙汰です。表記に関する論文拝見しました。知られざる世界を
知り、感銘を受けました。実は、13日は旅行の予定をしておりまして
、念のため自宅を立つ前にインターネットを開いて見て、貴兄のE-mail
に出くわし次第で急いで一読し出発しました。
前日の12日に私もHPで電力自由化の意見を求められ、自説も固
まらないまま、不本意で所見を(暫定的に)述べておいたので、乗
り物に乗っていても、旅行中も色々考えるところがありました。
と言うのは、当初から一つ引っかかつていたテーマがあつた。それ
は、一言で言えば、日産の建て直しに「ゴーン」氏か来たではない
か。9電力会社に9人のゴーンが来たら、たちどころに電気料率が
半減するのではないか、と言う事に尽きる。
電力自由化に関し誰もこの様な発想を出すものが居ない。少し怖く
なって、暫く様子を見ることにしていたのですが,しきりにこのことを
考えていたが、構想を練って打ち出す決心を固めました。
帰宅してインターネットを開くと杉木氏のコメントが入って居りま
した。傾聴すべき意見でありますので、これに応えるためにも何と
か2〜3日位で纏めたいと思っております。
2月16日 中川雅行氏
さて、「カリフォルニア電力危機とアジアの電力セクター改革に思う」拝読させて頂きました。
規制緩和および民営化における、先進国と途上国の温度差については、足立先生のおっしゃる通りであると思います。
特に、「電気料金の逆ざや」と「地方電化」については、先進国(供給力が確保され、市場価格での電気料金水準を
達成している国)と途上国で、状況が全く違うものと思われます。
そもそも、米国で始まった公共事業の規制緩和(自由化)は、「消費者の利益保護」がその根底にあると思いますが、
カリフォルニアの事例は、結果的に供給コストが高騰し根底の理論を覆すことになりました。そもそもカリフォルニア
では(米国全体の傾向でもあるでしょうが)、規制が厳しく、また供給力の確保が遅れぎみであった模様です。当然、
IPPの進出を含む電力の自由化の中で電力会社が、経営効率を考えるならば、新規投資はせず、既存設備の効率的な利用を
考えるのが当然の成り行きです。
一方、英国を中心にした電力の民営化は、「消費者の利益保護」といった側面も持っているでしょうが、同時に労使問題
(石炭産業の労働組合問題)の解決を中心とする国営企業改革が、その根底にあると思われます。
改革を始めたころの欧州各国では、電力の供給力はむしろ余剰設備がありましたし、需要もあまり伸びていなかった模様
ですが、こうした点でも途上国とは事情が大きく違っております。
英国では、以前から株式投資が活発に行われおりますが、自由化後の電力株も優良株が多いと聞いております。
途上国の電力改革を考えると、投資資金の確保から規制緩和を実施し、国営企業の負債削減を中心とする経営効率のために
民営化を実施している様に見うけられます。
こうした点を見ると、規制緩和や民営化の出発点が、先進国と途上国では異なっているような気がしております。
公共事業は何のためにあるのか?何をするべきなのか?といった、基本的な事柄がまず第一番目にあり、状況に応じて
規制緩和や民営化などの実験を進めていくべきであろうと考えております。
特に、「プール・システムの創設」は慎重に行っていかないと、失敗する可能性が大きいように思います。
こうした意味で、私は今後の韓国電力公社の動向を注目しております。
2月17日 竹村陽一氏
久し振りにシャープな論調に接し、平素は眠っている電力マンOBが目を覚まし議
論の仲間入りをすることにしました。
先進国の電力規制緩和は参入自由、価格自由、料金低下、消費者利益のストーリ
ーであったかと思いますが、加州で破綻をみた。貴説にあるように電気を普通の
経済財とみなした市場主義は無理だと思います。
これが成立するためには、いろいろの好条件が揃はなければならない。それでも
「供給責任」という規制をかけないと、撤廃自由があれば供給の保証はできない
理屈です。
途上国の伸びるべき電力供給は資金調達がカギだと思います。資金の民活化が必
要なことは論を待ちません。問題は成長する電力産業へ資本市場からどううまく
調達するか?安定利回りをよしとする投資家も世界中には多数いるでしょう。水
力を含んだ電力産業は安定成長の可能性の大きなセクターです。なんとか上手な
仕組みを作って、我が国の資金を途上国へ役立てたいものです。
2月18日 林俊行氏,マラウイより
足立さんの『カリフォルニア電力危機とアジアの電力セクター改革に思う』とその後の諸氏のご意見読ませていただきました。私は1999年4月マラウイに赴任しましたが,ここでも世銀主導による電力セクターの民営化が行われています。今回足立さんやその他有識者の方々の意見を読ませていただき,マラウイに赴任して以来私がいつも感じていた疑問をまさに皆さんも同じように持っていらっしゃるのを改めて知ることができました。私も足立さんやその他諸氏が持っておられる世銀主導の電力民営化に対する疑念を,同じように持っているものです。
途上国特有の現象は古市さんがご指摘のように電力需要の伸びが大きいこと,そしてマラウイを始めとするアフリカ諸国では電化率が極端に低いことです。ちなみにマラウイの家屋電化率は4%,近隣諸国のザンビアやジンバブエなどはせいぜい10%から20%程度です。世銀の問題点はこのような非常に低い電化率を考えず,電力セクター効率化のためにワンパターンでどの途上国に対しても同じような民営化メニューを押しつけている点です。そしてこの問題は個々のセクターの技術的特徴(この特徴は既に指摘されている設備形成の時間と共に,生産と消費が同時に行われるという点を指摘したいと思います。)を分析枠組みに入れることのできないマクロエコノミストが世銀を牛耳っているところにあります。例えばマラウイで電力民営化を勧めるために世銀が示した成功例がアルゼンチンの例だったと私のマラウイのカウンター・パートはあきれていました。ちなみにマラウイの総発電設備容量はたったの284MWです。発送配電全てやっているEKOMは非効率的な電力供給を行っていることは事実で,改善すべき点は沢山あります。しかしその処方箋は必ずしも民営化だけではないはずです。世銀は銀行であるため個々の電力セクターの状況に沿った技術協力を行うことができず,またマクロエコノミストが借款供与政策を決めているため,このような新古典派的市場原理一辺倒の対応しかできないのが今の世銀の現状です。この点で日本の技術協力を電力セクター効率化のための世銀借款供与条件と連動させることができると大変おもしろいと思うのですが。
5,6年ほど前通産省の委託(実施はアジ研)でパキスタンの電力セクターの調査をしたことがあります。やはり世銀主導で同じようなことが行われており,足立さんご指摘の料金逆鞘の中IPPが続々運開し,WAPDAは悲鳴を上げて大統領自ら契約を破棄しようとしたものの国際法廷に提訴するとIPP側から脅され,大混乱になっているという新聞記事を3年ほど前読みました。今まで途上国で電力民営化がうまくいっているのを,私自身ほとんど聞いたことがありません。マラウイでも古市さん御指摘のIPPの目的と電力プール制による競争原理導入の目的が混同されています。更に困った問題は現在地方電化法を作成中で小職も委員会のメンバーになり法案を議論していますが,法案の前提となっているPower Policyの"理念"が,電力セクターの民営化と市場原理の導入であるため,電化は政府が政府の資金を使って意図的に行ってゆくという政府の方針があるにもかかわらず,この方針が不明確なのものになってしまっている点です。このため現在検討されている地方電化法案ドラフトでは,電化の中心的プレーヤーは政府(エネルギー局)であるはずなのに,あたかも認可を受けた電力会社や民間企業がそうであるかのようにドラフトが作成されています。つまりマラウイでは電力民営化が地方電化政策を混乱させようとしているということで,これは至急明らかにしなければならない問題と思っています。
既に足立さん初め何人かの識者の方々が指摘されているように,電力自由化は需要側も供給側も十分成熟した段階で始めて可能になるものと思います。この点で世銀は大きな間違いをしていることは明らかです。しかし途上国の電力セクターと電力会社においても解決すべき問題は山積しています。その問題は単なる設備形成だけの問題ではなく,電力セクターと電力会社に宿る構造的問題です。アジアでは経済発展に見合う設備形成をいかに継続・維持しながら電力セクター全体及び電力会社自体の効率化をいかに進めてゆくかという問題です。アフリカ諸国,特にLLDCではこれと共にいかに電化率を向上させるかという問題が入ります。世銀は効率化という問題を構造調整融資という飴と鞭を使って,電力自由化という薬を飲ませることにより解決しようとしています。しかし途上国側は素直に薬を飲まないだろうし,飲んだとしてもその効き目はおおいに疑わしいし,大きな副作用をもたらし必ずしも所期の目的を達成してくれるものではないと思います。そこで必要になってくるのが個々の問題に木目細かく対応できる技術協力だと思います。この点で繰り返しになりますが,世銀との連携というのは日本の電力関係者及び技術協力関係者にとり非常に重要な課題ではないかと思っています。
林 俊行
マラウイ地方電化計画アドバイザー