このページは,多年に亘ってダム開発に携わってきた私が,河川開発に対する自分の一般的な考えを発表するページと考えてください。一方的なダム開発技術者の意見かも知れませんが,大きなダムを造ることだけに喜びを感ずる土木技術者であると思われると困ります。時代とともに我々技術者も勉強してきました。何処まで時代の流れをとらえているか,それは各個のダム開発の関係する人々の感受性に追うところが大です。大いに議論していただきたいと思います。徐々に,現在世論の注視のもとにある世界のダム計画についても,順次取り上げて行きたいと思います。
項目
ダム建設に対する世界の批判が火を噴いている。ラオスが開発と環境の狭間で揺れているが,ここに北と南の考え方の違いの典型を見ることが出来る。ダムに係わらず,開発に対する批判には,「衣食足りて礼節を知る」という言葉が連想されるのは私だけであろうか。日本の戦後の電力不足の最中に高校への入試にさらされ,頻繁に停電するために蝋燭を手元に置いて勉強したことを思い出す。あの黒部川の黒四ダムが開発されたときは,この電力不足を解消するための鍵を握るこの計画が,恐らくあのころはかなりの世論の期待を担ってがむしゃらに推進されたのであろうと思う。
しかし,今この日本であのような計画を取り上げれば,恐らく世論の攻撃にさらされて実現は不可能であろう。我々は。豊富な電力に守られて豊かな生活を送っているからである。電力の代替手段も開発されて,大規模火力から原子力,更にはピークを供給するための小規模な貯水池で大規模なピーク供給力を得ることの出来る揚水発電所,このような代替手段は当時はなかった。だから豊かになった我々が,これから発展しようとする国の人々に対して,「前者の轍を踏むな」とアドバイスする気持ちは理解できる。
矢張り私も,ダム開発に伴う弊害は大きいと思う。水没移住や森林の喪失も影響は大きいと思うが,これらにはいろいろな対策が考えられる。エコロジーの問題は専門家に任さなければ分からないが,相対的なバランス感覚で対処されなければならないであろう。今,ダム技術者がどうしても解決困難な問題は,規模にもよるが,大きな貯水池が土砂を止めてしまう問題だと思う。これはまた別の機会に議論するとして,ダム開発に伴う副作用には容認できないものがあることは事実である。
そこで,経済性の意味も含めて代替手段があったり,効果が極めて小さい開発計画は,出来るだけこれを抑制する方向で対処することが正しいと思う。しかし世の中には,これこそが唯一の手段であり,人類にとって必須のダム計画であるというものがなお未開発で残っていることは事実と思うがどうであろうか。これを認識することは至難の業であり,それぞれの立場があって,全人認める絶対必須の計画と皆が合意するのは不可能かも知れない。しかし私はそのような計画が存在することを知っているし,そのときこそは,人類の英知を集めて開発への方策を探るべきだと思う。
技術論になるが,発展途上国のダム計画を見ると,計画面で少し安易なところがあるような気がする。我々が電力会社の中で国内の水力の計画を扱った当時は,爪に灯をともすような肌理の細かい作業が要求された。狭い日本の国土の中で,如何にして再生可能エネルギーを増大して行くかのテーマーは,労多くして報われるところが少なかった。しかし最近の東南アジアのダム開発計画を見ると,流域面積の大きいところにエイヤーっとダムの絵を描いて,これを押し進めて行く,上流の複雑な地形を鉛筆をなめながらいろいろな線を引っ張って見るという作業が行われた形跡は乏しい。大きな川の中流又は下流にはダムを造れ,というような考え方が目に付く。この難しい時代にも,このような考えで策定された計画に従って進められているものが大部分だ。計画は時代とともに変わって行くべきで,常に最初から見直す姿勢が必要で,このような観点からは,今問題となっていて一向に進展しない計画は,その根底から抜本的に見直す必要を痛感している。
メコン地域全体図 Xiawong は中国領内の小湾貯水池計画
本流沿いのダム開発は不可能:メコン委員会が出来てから半世紀になろうとする。最初の目的は明らかに本流沿いの大規模ダム開発であった。1970年代の支流ナムグムダムの開発が,唯一メコン委員会が関係して実現した大規模貯水池である。本流沿いの開発は,古くはプノンペン上流のサンボール計画,ビエンチャン上流のパモン計画であり,パモンについてはつい最近まで,ダムの高さを下げてでも実現したいと,躍起になって事務局が進めてきた。その目的は,安価な電力と,乾季の渇水量を増大したいという2点であった。半世紀に亘って積み上げた報告書の量は,それを川に積み上げればダムが出来るほどの量であろう。数十万人の水没を伴うこれらの計画は,恐らく永遠に建設不可能と,私は思っている。今でも,低落差の発電所を,と考えている人たちがいるが,メコン川は乾季と雨季の水位差が大きくとても低落差開発には耐えられないと思う。パモン計画をやっていた頃に,その下流の逆調整ダムを計算したことがあったが,雨期の下流水位が高く発電不可能であった。
メコン川渇水量の目安:メコン川全体の流域面積は約80万平方kmで,デルタに出る手前のプノンペン上流で約60万平方kmである。上流,タイが分水しようとしているビエンチャン近辺で30万平方km,ミャンマーに達する「ゴールデントライアングル」の地点で20万平方kmである。1985年までの30年間で計算した結果では,ビエンチャンの最渇水量が毎秒約800トン,プノンペン上流で毎秒約2000トンとなっている。ビエンチャンの渇水量の値は,日本の降雨の状態では毎秒3000トンあっても良いわけで,面積当たりの河川流量は日本の約4分の一と言うことになり,河川水を利用する立場からは非常に厳しい河川といえる。
洪水調節の可能性はあるのか: メコン川には,洪水を調節できるだけの容量を持つ貯水池の建設の可能性はゼロである。現在,カンボディア領内のトンレサップ湖が,自然の洪水調節の役割を果たしているほか,ビエンチャン下流周辺が,自然の遊水池の役割を果たしている。トンレサップを人工的に調節できるように改造してはとの案もある。しかし,トンレサップの環境への影響等を考慮し且つ経済効果を考えると,実現は難しい。特にデルタの洪水に対しては,堤防で守ることも不可能で,自然の脅威をそのまま受け入れざるを得ない。洪水警報等の情報ネットワーク構築に力を注がざるを得ないであろう。
どの程度の渇水量増大が必要か: 最も水が欲しいのはタイであり,特にバンコクの都市用水毎秒150トン,東北タイの灌漑用水毎秒450トン,合計約550トンの増量が必要と言われてきた。数年前までは,東北タイの水問題はその貧困問題と結びつけられて,最も大きな政治問題であって,メコン支流のチ川やムン川にメコン本流の水を導水する計画が真剣に論じられていた。ベトナムのデルタも渇水量増大が欲しい。それは,渇水期に海水が遡上して稲作に甚大な塩害の影響をもたらすからである。しかしこれに対しては毎秒2000トンレベルの増量が必要という説があり,とても通常のダム計画では対応できる量ではない。
渇水量増量の対策はあるのか: 昔のパモン計画が挫折して以来,効果的に開発可能なダム計画はない。私の計算によると,現在中国が上流で計画中の小湾計画は,流域面積約11万平方kmに約100億トンの容量を持ったダムを建設すれば,下流にプラス毎秒800トンの増量をもたらすことが出来る。中国は,この計画から得られる400万KWの電力が,東の海岸地帯の経済発展のために不可欠として,その実現に力を入れている。その他,もし
Nam Theun 川の下流に有効なダムが建設できれば,電力とともに渇水量約500トンの増量が可能である。しかし,今の環境問題に対する世論を考慮すると,この計画は実現不可能であろう。こう見ると,小湾計画を必要とする中国の政治力に期待する以外に,メコンの流況の改善は期待できない。
東北タイは今でも水が必要なのか: 東北タイの貧困問題を解決するためには,東北タイの約100万ヘクタールの灌漑を行うための水,毎秒450トンは,今後のタイの経済発展のために,至上命令であると言われていた。しかし最近,新聞紙上等でもこれを主張する論が影を潜めたように思われる。これは一体どういうことなのか。東北タイの開発の方向性は,農業か工業かで揺れてきたような感がする。工業化の方向を打ち出せば水は必要ないか,というとそうでもないが,その必要量については,再度見直しが必要となるであろう。最近のバンコクポストの報道を一つのヒントにして考えてはどうか。
小湾計画実現への関門: 流域唯一の流況改善への期待を担う小湾計画の実現のためには,技術的な関門と政治的な関門がある。技術的にはダムが土砂をせき止める問題で,下流デルタへの影響はないとしても,直下流のビエンチャン河岸は今でも浸食の影響に悩んでいるので,何らかの強力な護岸工事が要求されるだろう。これはビエンチャン下流の堰(東北タイへの導水のために必要)が効果的かも知れない。政治的には,下流国との合意のもとに中国は計画を進める必要があるので,その話し合いをどのように進めるか,またタイとしては確実に渇水量増大の権利を確保するためには何らかのダム計画への参加が必要となる。これらの思惑のうえに資金問題が絡んで,前途には難しいものがある。しかし人類にとって英知を集めて実現する必要のあるダム計画の一つであろう。
Plan to help Isan gets cabinet nod (1997/4/23 Bangkok
Post)
Farm productivity, development targeted Wang Nam Khieo A blueprint to develop
the impoverished Northeast (Isan) with a combination of modern technology
and local skills was approved by the cabinet yesterday. The blueprint,
proposed by the National Economic and Social Development Board, focuses
on boosting farm productivity, promoting the private sector role in development
and promoting related and support industries. According to the board, income
in the Northeast is one-third the national average and nine times less
than that of Bangkok. Of 50.47 million rai owned by farmers, 5.4 million
rai is mortgaged. The blueprint spells out the following strategies to
develop: The agricultural production base to enable it to compete under
the World Trade Organisation framework. Main and related industry zones
with links to key industries on the Eastern Seaboard. Special economic
zones geared towards industry, trade and investment in neighbouring countries.
Tourism in relation to Indochina. Human resources to cope with regional
and Indochinese economic expansion. As part of the agricultural programme,
Thung Kula Ronghai plain, covering two million rai that straddles several
provinces, has been designated a special agricultural economic zone for
the lower Northeast. Rice productivity in Thung Kula Ronghai is to be increased
to 60 thang (900kg) per rai for rainy season farming with the introduction
of modern and appropriate technology. Cultivation of crops that consume
less water is to be promoted in the dry season. The role of the private
sector should be promoted and an integrated plan encompassing development
of infrastructure, public utilities and marketing systems is to be drawn
up. Legislation and regulations on contract farming will be promulgated.
Nakhon Ratchasima will be developed as the region's industrial centre under
a master plan to be drawn up to govern the direction of expansion of the
city and public utilities. Support and related industries are to be sited
in Buri Ram and Surin provinces. Industrial estates for related industries
are to be set up in Nakhon Ratchasima, Buri Ram and Surin to link with
main industries on the Eastern Seaboard and in Bangkok. Khon Kaen has been
designated the centre for trade and services in the upper Northeast. A
master plan to develop special economic zones in Khon Kaen, Kalasin, Mukdahan,
Nakhon Phanom and Sakon Nakhon will be drawn up to emphasise promotion
of tourism in relation to similar businesses in neighbouring countries.
Udon Thani, Nong Khai, Nakhon Phanom, Mukdahan and Ubon Ratchathani will
be developed as production bases geared towards cross-border trade. Tourism
is to be promoted in an area that encompasses Ubon Ratchathani/Si Sa Ket,
Kon Papeng, Laos, and Preah Vihear, Cambodia. Somphob Amartayakul, Deputy
Industry Minister, said attempts were under way to relocate labour-intensive
industries to the region's 11 poorest provinces. Labour there remains cheap,
he said, and a workforce of 11 million guarantees adequate manpower. The
cabinet told the Industry Ministry to coordinate with the board, the Finance
Ministry, Budget Bureau and Board of Investment to speed the establishment
of industrial estates in Nakhon Phanom, Si Sa Ket and Mukdahan. Wang Nam
Khieo district, Nakhon Ratchasima, where the cabinet met, was designated
a special development zone for the conservation of the environment and
natural resources. A 10-million-baht allocation from the central fund will
be used by the province in cooperation with NGOs and universities to draw
up a plan for the development of the upper basin of the Moon and Lam Phra
Phloeng rivers in six months.